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1. 2025年3月6日 side A オーロラ
母に手紙が届いたのは、シドニーにある大学の夏休みが始まったばかりの3月の初めのことだった。キッチンでボウルの中のスコーン生地を捏ねていた私は、リビングのソファの上、神妙な面持ちで手紙を読む母の様子が気掛かりだった。
クッキングシートを金属トレイに敷いて丸めた生地を次々に乗せオーブンに入れて熱すると、リビングへ向かい、先ほどから何度も手紙を読み返している母の横に腰掛け尋ねた。
「誰からの手紙?」
神妙な顔の母は一瞬答えるのを躊躇ったように見えたが、やがて口を開いた。
「マディソンからよ」
マディソンは私のもう1人の母親のような存在だった。幼い頃マディソンは私に絵本を読んでくれ、絵を教えてくれた。私が絵本作家を志したのは彼女の影響があったからだ。だが彼女はある日イギリスへ行くと言って姿を消した。彼女がいなくなる日、大きな声で泣いたのを覚えている。
その後もマディソンは3ヶ月に1回くらい家を訪れては、一週間〜二週間の間家に泊まり、その間私の世話を焼いてくれた。よく母と私宛に別々に手紙をくれ、学校に入学するときはペンケースや鞄や新しい服や靴を買ってくれ、母に内緒で小遣いをくれたりしていた。人間関係などで困ったことがあると相談に乗ってくれ、客観的なアドバイスをくれるのも彼女だった。
母はその後衝撃的な言葉を口にした。
「あなたは気づいていたかもしれないけど……彼女と私は恋人なの」
それから母はこれまで私に黙っていたことについて語り始めた。
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