1. 2025年3月6日 side A オーロラ

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 母は私に手紙を見せたあと何度も「無理しなくていいのよ」と繰り返した。 「あなたにはクリスティや、他にも慣れ親しんだ友達が沢山いる。いきなり移住となると、精神的にも辛いでしょうし……」 「移住するかどうかは、今すぐには決められない。だけどママ、私はどうしてもマディソンに直接お礼を言いたいの。私がここにいられるのは、彼女のお陰もあるし」  私は母の目を真っ直ぐに見た。こうしてシドニーの地でのびのびと成長し生きてこられたのは、母の他に、マディソンという存在があったからに他ならない。だからこそ、真実を知った今、彼女に自分の口からお礼が言いたいという気持ちを抑えることができなかった。 「そう……それなら一度行ってみる?イギリスに」  そう答えたときの母の目は、少しだけ潤んでいるように見えた。
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