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熱い、皮膚がひりつく。
手放していた意識が戻った時、目を開いて一番に飛び込んできたものはたった一種類の色。四方を同じ色で塗った箱のなかに閉じ込められているように、ただ一色、蒼しか見えない。
「っ、な」
焦燥で叫びだす前に、自分の身体への違和感に気が付いた。指一本満足に動かせない。それどころか無理に動こうとすると顔になにかが落ちてくる。この匂いは、土?
「起きたか、千秋」
「……聖」
水面から覗きこまれているような奇妙な感覚に、じわりと汗が滲んだ。そんな俺を見て聖はふと視線をずらす。そうして、その先から現れるのは白。蒼に落とされた、白点。
「改めて紹介するよ」
「…まっ、ひじ、」
「この子はお前の子だ、千秋。お前と、美菜の子だ」
「!!」
そうかな、と思ってはいたけれど。それでも俄かには信じ難い。だって、一体どうして。どうなったら、そんな、嘘みたいな奇蹟。
俺の機能不全で役立たずな脳に浮かぶ疑問はお見通しとでもいうように、聖は機械的な声音で淡々と容赦なく言葉を続けていく。
「不思議そうな顔してるな。……当然か。なあ、千秋。俺さ、ずっと自分の名前が大嫌いだったんだ。なんでだかわかるか?」
答えなんて出てくるはずもない。頭は、益々混乱していく。
「なあ、千秋。……俺、俺と、美菜」
「っ、」
「異母兄妹なんだよ」
瞬きを一つ、それと同時に身体が硬直した。聖は、今、なんて言った。聖と美菜が兄妹。きょうだい。そう、言ったのか?
「俺の名前は父さんがつけたらしいんだけど、ふざけてるよな。浮気相手の、母さんを捨てて、駆け落ちをした相手の名前から取った一文字だなんて。嫌がらせ以外のなにものでもないよ」
その時、俺のなかで全てが繋がった。
竜門聖菜、
聖菜、聖、そして、美菜。
なんで、どうして気が付かなかったのだろう。聖の両親が居なくなった時期、美菜が母親に連れられてこの村にやって来た時期。
ああ、なるほど、美菜の母親は〝次〟の寄生先に俺の親父を選んだのか。知らないふりをして全部知っていたんだ。この村のことも、親父のことも。親父は、聖の父親とは同級生で親友同士だった。
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