32人が本棚に入れています
本棚に追加
「父さんと母さんは表向き、事故死扱いになっているらしいけど、でも、多分、」
そこまで言葉を唇に乗せると、聖は顔を伏せた。
「母さんが、父さんを道連れにしたんだろうな」
外されたままの視線が哀しい。
俺、やっぱり馬鹿だ。なにも知らなかった。なにも、なにも。
「早紀の手紙、な、……俺が書かせたんだ。まあ、まさかあんな小細工をされているとは思わなかったけど。でも、良い起爆剤にはなっただろう。後悔、しただろう?」
フラッシュバック。
『ゔああああぁぁあ゙あァァ!』
そうか、俺はまた一人で勝手に勘違いをして、本当に馬鹿だ。
あの時、早紀はどこを見ていた?なにに怯えていた?よく思い出せ。彼女の視線の先には、聖がいたじゃないか。
「早紀や綾がしていたことも、千秋、お前がしていたことも知ってたよ。全部、ぜんぶ。俺は知ってたよ」
不意に戻された視線が冷たい。漆黒の瞳に映る世界が見えない。
「幸次は、アイツだけは、…本当に何も知らなくて。殺すつもりなんてなかったんだけどな。でも、正直過ぎる奴だから、だから、」
「……聖?」
「あの週刊誌の記者に目をつけられた」
「!!」
「目をつけられて、全部、喋ろうとしていたから、……俺が、」
夏の爽やかな風が、聖の前髪を浚っていく。
「川で見つかった死体、あの記者のなんだ。俺の服を着せて、首だけ切って。だからもうすぐバレるとは思うけど。でも大丈夫」
心臓が痛い。心臓が煩い。
「その前に、終わるよ」
ふわりと元に戻った髪が陽に透ける。いつも、いつの日も穏やかだった聖。でもそうじゃなかった。俺達と違って、ほんの少し、感情が奥の方にあっただけ。隠して過ごしていただけ。
本当は、誰にも止められないような激情を持っていたのに。
ぽたり、ぽたり。
最初のコメントを投稿しよう!