≪16≫ 永遠の夏

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自分の顔に降る雨は、とても、とても、綺麗で苦しかった。 「……っ゙、なあ、千秋……なんで、なんで、あんなこと、……妹だったんだ、俺の、……あの夜、二人で逃げようって、祭りの前に逃げようって、約束していたのに…」 ぽたり、ぽたり、透明な雫が幾つも生まれては落ちてゆく。 『ひーちゃん』 美菜が聖に抱いていた感情。それは、なにより彼女が欲していた〝家族〟の温もり。たった一つの、最後の、縋った、希望。 「あれから、俺、……どうしても諦めきれなくて。一人で美菜を掘り起こしに行った。そうしたら、美菜、ふふ、……息を吹き返していたんだ。この意味、もう、わかるだろう?」 雨が止む。風が再び啼きだす。ごうごうと。嵐のように。 「おいで」 聖に呼ばれて大きく身体を乗り出した少女は、本当にいやになるぐらいに美菜の面影を濃く残した愛らしい女の子だった。あの不気味さも、恐ろしさも、今となっては微塵も感じない。可憐な少女。 「この子は、列記としたお前達の娘だよ。……美菜は、肥立ちが悪くてね。この子を産んでからすぐに死んでしまったけど」 ぽたり、ぽたり、再び降りだす雨が俺の瞳に落ちて重なる。 「あんな風には言ってみても、……生きて償うのと、死んで償うの、どっちが正解だなんてやっぱりわからなかったよ。正直まだ、全然、わからない。でも、だからこそ。……生きて、悔いて、償ってから死んでくれ、千秋。……俺、どうしてもお前を赦せない」 (い、やだ) 「出来るだけ長く〝生きたまま〟後悔して、死んでくれ」 (嫌だ、嫌だ嫌だ、嫌だ!) ――ザクッ、 ああ、あの日の音がする。過去から音が追い掛けてくる。逃げられない。息ができない。湿っぽい土の匂いが充満して、それから、 「大丈夫、約束しただろう」 「……ひ、じり、嫌…っ゙」 「お前を一人にはしないって」 大粒の涙が一つ、聖の右頬を伝って俺にダメ押しのように降った。
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