≪19≫ 秘密の夏

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≪19≫ 秘密の夏

「いや~!救いがなさ過ぎてお腹の奥が気持ち悪う~」 「だよね、最後になにかあるかなって思ってたけど。……うーん、これはある意味で裏切られた感じ」 「まあでも安易にハピエンじゃないのは評価できる!」 「ははっ、それは確かに」 同じパンフレットを持ち、次々と小さな出入り口から出てくる老若男女の反応に口元を緩めた。賛否両論、どんと来いですけど。なんて、腕を組みながら踏ん反り返ったところで優しく頭を叩かれる。 「……顔、怖いって」 「そう?いやいや、それより遅すぎでしょ!――千秋」 名前を呼ばれ、僅かに微笑んだあと。視線で誘導しようとするのは私の旦那さま。その誘導に素直に従えば、幸せが待っている。 「わー!さーちゃん久しぶり!」 「よーす!早紀」 「変わらないな、早紀も」 「いや、それ聖が言う?聖こそ全然じゃん!」 「綾もな?」 「うわっ!でた!天然たらし!!」 懐かしい空気、懐かしい顔ぶれ。 「あっはは!……ほんとうに久しぶりだね、みんな!」 映画館のロビーに併設してあるお洒落なカフェで、いい歳をした大人達がはしゃぎ合う。まるで昨日も、その前も、ずっと会い続けていたかのように。数年、揃って会えてなかったブランクなんて全く感じさせないで、こんなにも楽しい。こんなにも嬉しい。 「しっかし早紀が小説家になるとはねえ。そんで映画化とか!おまっ、どんだけ稼ぐ気だよ!つーか、俺の扱いマジで酷くね?」 「はは、ごめんって。だって幸次はやっぱり良い奴だし?」 「それ褒めてる?」 「褒めてる!し、幸次はほんといい方!たぶん!」 「いや、本当にな」 「「あ゙」」 「どう考えても一番酷いのは俺だろ」 苦笑しつつ、手元のパンフレットを広げる聖。 「……見てくれたの?」 「ん、さっき美菜と一緒にな」 「ひーちゃんの俳優さん格好良かったねえ……あっ!もちろんひーちゃんの方がぜんっぜん格好良いけど!」 「あー、ハイハイ。独り身の前でイチャつくの禁止~!って、一番扱い酷いのって私じゃん?初っ端から死んでたんですけど!」 ぷくっと頬を膨らませ、仁王立ちで抗議をしてくる綾は昔のままの綾すぎてほっとする。綾だけじゃない。みんな、みんな、変わった(・・・・)けど変わらない。これが、三十になった私達の今。
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