≪19≫ 秘密の夏

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* 「わー!やっぱりここは空が高い」 都会の埃っぽい匂いだとか、濃い排気ガスの匂いだとか、そんなものの一切ない世界。見渡す限りの緑と青、時々白。 背筋をピンと伸ばし、両手を大きく広げて深呼吸をした。空気が美味しいだなんて台詞は、千社(ここ)以外ではなかなか言えない。 「変わらねえな」 「ほんと!千社はずうっと千社だ」 これが私達の故郷。生まれ育った大好きな村。 「お婆ちゃんのお墓参り、行かなきゃね?」 「ん、そうだな」 それぞれの想いを乗せて過ごしてきた村。掛け替えのない瞬間を共に過ごした季節。春も、夏も、秋も、冬も、そしてこの〝夏〟も。 きっと、ずっと、掛け替えのない想い出として残るのだろう。 「早紀、行こう」 目の前には、手を差し伸べてくれる大好きな人がいる。これからも共に過ごしていきたい大切な友がいる。なんて幸せ、こんな幸せ。 「待って、みんな!」 土と砂利の混ざった道を走った。ただ、前だけを見て。 「早紀ー、こけんなよー!」 「転ぶ前にちーちゃんが支えるでしょう?」 「あー!もうマジで婚活しよ!……寧ろ、ワンチャンこの同窓会に賭けるのもあり?誰か良いの残ってたっけ?奥村とか独身?」 「……綾、程ほどにな?あと奥村は既婚者」 「んもお゙~!」 「あははははは!」 盛夏の強く白い陽射しが肌に落ちてくる。あたたかな光の束が背中を押してくれる。だから、走れる。まだまだ、もっと、もっと。 (好き、大好き。みんな、ありがとう) そっと呟いた告白を胸に、一番うしろで泣いたことは誰にも秘密。千秋にも、内緒。これは私の、景山早紀( わたし )だけの、――秘密の夏。
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