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「……ねぇ、歩。ほんとに志望校を変えるつもりなん?」
「え――」
「歩が本気でそうしたいっていうんなら、止めるつもりはないけどさ。少しでも迷ってるんなら、一緒の高校に行こうよ」
「……でも」
「大丈夫だって。これからどんなに環境が変わっても、俺たち自身が変わっても、その都度立ち止まって、一緒に考えていけばいいじゃん。……なんかさぁ。俺、ここしばらく歩と離れてみて、ほんときつかったんだよね。だから、出来るだけ歩がそばにいてくれたほうが安心する」
「安心って、司が?」
「うん。……そういや、こないだの夏休み、歩に『俺の色って何色?』って聞いたことがあったよな。あのとき、歩が『自宅みたいな』って言ってくれたこと、覚えてる?」
「うん」
「あれ、じわじわ嬉しいなって思ってて。だって、自宅って絶対代わりがきかないし、心から安心できる場所ってイメージじゃん」
「……うん」
「そういう風に思ってもらえるのって、なんか嬉しいっていうか、最高じゃね?」
「……そうかな」
「そうだよ」
恥ずかしそうに目を逸らす歩に向かって、司は両手を差し出した。
「だからさ。はいっ、どうぞー!」
「どうぞ、って……、え、」
「久しぶりの自宅、堪能してよ」
「は――、いや……、わっ!」
戸惑う歩にまっすぐに向き合うと、司は歩に詰め寄って、その体をぎゅっと抱きしめた。
「はぁー。自宅……、自宅かぁ。うん、確かになんか安心するかもー……ってあれ」
体を離してみると、顔を真っ赤に染めた歩が目の前ですっかり固まっている。
「ごめん、ハグ、やっちゃダメだった?」
「――……い、いや、そうじゃなくて。司のほうこそダメなのかと思ってたから」
「えー、俺は別に。これくらいよくない?」
「だって、学校で噂されたときすごく怒ってたでしょ。だから、こ、こんな風にするの、嫌なのかなって」
「だから前も言ったじゃん。あれは」
「分かってるけど。……そうやって司にどんどん甘やかされると、なんていうか……、怖くなる」
歩はこころもち後ずさると、戸惑うように目を泳がせる。
「甘やかしてるつもりはないけどなぁ。周りがなんて言ったって、お互いが嫌じゃなけりゃそれでよくない?」
「……そんな考えでいると、先々よくないと思うよ」
「先々よくない? なんで?」
「なんで、って言われても――」
歩は困ったように目を逸らしたまま口ごもっている。
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