溶けない怒りに砂糖を加える

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 僕は考える。  何が悪かったのか。  不必要に強い夏の日差し。  エアコンの不調。  特売日に釣られ、わざわざ車で20分もかかるスーパーマーケットまで出向いた僕の卑しさ。  大丈夫だろうと多寡(たか)をくくってドライアイスを貰わなかった僕の浅はかで貧相な脳細胞ども。  あと自宅の駐車場が狭いので、駐車に少し手間取った。  思いついた要因を頭の中で羅列していくと、ふと気が付く。  ――もしかして、僕が悪いのか?  心が砕けそうになる。  が、即座に否定する。  そんなことは断じて違う。  違うし、認めない。  僕はアイスを食べたかっただけなのだ。  ――僕が悪いというよりも、もっと根本的なことが間違っているはずだ。  つまり、アイスそのものに原因があるのではないか。  暑いから美味しいのに、暑いから溶けるという、理不尽極まりない構造そのものが悪いのではなかろうか。  つまり一番の要因は、アイスクリームが溶けるものである、という不条理な構造そのものにある。  考えがそこに至った瞬間、まるで稲妻に打たれたように僕の脳は開いていく。  僕の怒りは宇宙の深淵(しんえん)(のぞ)み、確たる(いしずえ)に触れる。宇宙の深淵は、果てない不条理。確かなものは、溢れる怒り。  僕は今、真理に触れた。  ――どうしてアイスは溶けるのか。  僕の意識の全ては、その許しがたい真理へと収束する。  仮にアイスが溶けない食べ物であれば、僕はこんな甘ったるいゲル状の何かを飲まずに済んだというのに、どういうわけかアイスは溶ける食べ物だから、僕はアイスを食べられないではないか。  ――ゆるさない。  僕は絶対に、このアイスが溶けるという理不尽な現象をゆるさない。  人の作ったものであれば、人の望むものになればいいのに、どういうわけかアイスは溶ける。  わけがわからない。  許しておけるわけがない。  であれば、是正する。  僕が是正してやるのだ。  怒りは、全ての原動力なのだから。
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