溶けない怒りに砂糖を加える

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 * * *  15年後。  どうやら幸いにも僕の頭の出来は良かったらしく、既に博士号も取得し、生物学会では顔の通る存在になって久しい。  しかし、15年目の夏に、ふと気が付く。  ――どういうわけか、まだアイスは溶ける。  何故だろう。  僕は僕が生物学者になりさえすれば、アイスは溶けなくなるものだと思っていた。  アイスを固めるというその一点に自身の半生を捧げ、大して興味もなかった生物学まで研究しているのに、何故アイスは未だに溶けるのか。  少し、考える。  考え、行き着く。  よく考えれば、固体牛乳の研究など、あまりしていない気がする。  もっと言えば、固体牛乳に対する研究資金が無いのだ。  数年前、学会や大学へ固体牛乳の必要性を説いた時、あろうことか奴等は僕を嘲笑(ちょうしょう)し、資金提供をしなかったことを覚えている。  それならば、と僕はゲノム解析など金になりそうな研究へと方向転換し、とりあえずは研究資金の獲得へと勤しんでいたのだが、気が付けばその分野で博士号を取っていたものだから、なんだかそのまま流されてゲノムを解析し続けていた。  調子に乗って、ゲノムばかりを見ていた。  見ていたし、周りもそれを望んでいた気がする。  つまり僕は固体牛乳の研究をしたいのに、いつの間にかそれが許されない状況へと追い込まれていたのだ。
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