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血しぶきが飛ばない。
手に伝わる感触も、思っていたものと違う。
(!?)
山月の目の前に、ナタの食い込んだ丸太が転がっていた。
(幻術!? 変わり身の術?)
背後の気配に気づいたが、一瞬遅かったらしく、背中に激痛が走る。
「浅いわっ!」
そう叫ぶなり、九の手を蹴り上げると、短刀は、ブーメランのように、回りながら飛んで行った。
背中の痛みをこらえながら、山月は、九と殴り合い、蹴り合い、肉弾戦を制しよう奮闘する。
けれど、傍観していたカイトが、小屋の中に入っていくのが見えて、一瞬、気が散ってしまった。その隙にくらったみぞおちへの一発で、形勢が決する。
防戦一方、数発に一発は貰うという劣勢のまま、ついには、小屋の外壁に押しつけられ、首を掴まれて、締められた。
「はぁはぁ……お、終わりだ……。山月。手を焼かせやがって。はぁはぁ」
山月が、九の手を解こうと手首を掴むが、ビクともしない。自己催眠をかけて、機械のように、締め上げているらしい。九の悪魔のような笑顔が、それを物語っている。
(く、苦しい……)
山月は、胸の前で指を組み、印のポーズを取った。
(な、何か、あるはず……)
『速読術、暗記術、早食い、大食い、即興料理、夜目、腹時計、読心術……』
もうろうとしているせいか、ろくな忍術が浮かばない。
気が遠くなっていく……。
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