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九は、胸の前で手を合わせて指を組み、人差し指を立てて念じはじめた。空焚きした鍋から上がる煙のように、九の足元の砂が舞い上がる。
九は三体に分身し、山月を囲むように間合いを取った。三体とも、短刀を持っている。
山月は、動じなかった。もはや、九を恐れてはいない。
両手のナタを上段と下段に構え、臨戦態勢を取る。
音も無く、地面を蹴った三体の九が、同時に飛びかかって来た。
右手から、左手から、正面から、次々に襲ってくる短刀を山月は、はじいて凌ぐ。
「きぃぃぃやぁぁあああっ!」
奇声を発した九の動きが、どんどん速くなってくる。それでも、山月の振り回すナタは、遅れることなく短刀をはじき返し、ついには、隙をついて、一体の右手首を切り落とした。
「あおおぉうっ」
飛び退いた九は、分身の術を解いていた。
汗はかいているが、手首はある。どうやら、切り落としたのは、まやかしの方だったらしい。
間髪入れず、山月は、九の頭を目がけてナタを振り投げ、自らも、地面を蹴り上げて、跳んだ。
寸でのところで、ナタの刃を避けた九の顔面に、渾身の力を込めて、握っていたもう一本のナタを振り下ろす。
ナタは見事に命中し、九の脳天がパックリと割れた。
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