8.秘伝の忍術

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『なんだ彰斗(あきと)、東京に出るのか? お前は、伊賀衆、山月家の跡継ぎなんだぞ。自覚はあるのか?』  山月は、伊賀の実家を出る三日前、父からかけられた言葉を思い出した。 『忍術は、継承したからいいじゃん。東京に出て、普通の職に就きたいんだよ』  訴えても、山月の父はすぐには、首を縦に振らなかった。由緒ある山月家の跡継ぎの大切さを語り、思い留まるように説得してくる。  けれども、それが難しいと判断したのだろう。山月の父は、山月が東京に旅立つ日、まだ教えていない、秘伝の忍術を授けると言った。  その術が、虫獣創生(ちゅうじゅうそうせい)である。  山月は、その術を修得するコツと術の効果は教えてもらったが、術自体は見せてはもらえなかった。 『この術は、他の忍術が何も使えず、もうやられてしまうという、最期の最期に使うものだ。平穏な時に使ってはいかない。修行や練習でも使ってはいけない』 『え? れ、練習も出来ないの?』 『ああ。この虫獣創生(ちゅうじゅうそうせい)は、この世には無い、奇妙奇天烈な生物を生み出し、それに助けてもらうという忍術なんだ。一度、生み出してしまった生物は、三年は生き続けてしまう。むやみやたらと、そんなモノを生み出しては、いけないんだ』  草むらから、上体を起こした山月は、あの日、父から教わったコツを思い出す。 (虫獣創生(ちゅうじゅうそうせい)……か……)
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