50人が本棚に入れています
本棚に追加
不思議な光景だった。九が全員を操っているようにすら見えた。
「す、助太刀に行かないと……」
山月は、はたと立ち上がり、駆け出す。
「あれは、あいつの能力なんだ。術を使っている」
「術?」
意外なワードに、思わず山月は立ち止まった。
「そうだ、忍術だよ。九は、その手のプロさ」
「そ、その忍術って……。と、ということは、服部九は……」
そこまで言って、山月は言葉を飲み込んだ。警視総監と普通に会話していることに気付き、自分で驚いている。
相田は、偉ぶることも、威圧的になることもなかった。独特のオーラはあるが、敢えてそうしているのか、どちらかというと気さくで、話しやすい。
「九は、伊賀出身の忍者なんだよ」
(伊賀の忍者……)
山月の脳裏で、ダーツの稲穂が揺れた。店の隅々まで駆け回る玉ベエの姿を想像する。そこには、きっと、マスターしか居なかった。玉ベエは、ミスったのではない……と、腑に落ちるものがあった。
(きっと内偵を察知して、九は、隠れたのか……)
「だから、あの程度のチンピラなら、容易く処理してくれる。心配するな、山月」
山月は、カウンターでグラスを傾ける相田と目が合った。山月にとって、九は得体も知れず、敵味方かも、はっきりとしていない。ただ、忍術の能力が相当高いということだけは、理解できた。
最初のコメントを投稿しよう!