1.総監の犬

2/13
52人が本棚に入れています
本棚に追加
/128ページ
 玉ベエが戻ってくるのを待つ間、山月はスマートフォンで、ニュース記事を読んだ。 『日経平均株価続投! 終値、史上初の十万五千円台』  日本は、空前の好景気に沸いていた。  税収も膨れ上がったのだろう。一時期、1000兆円を超えていたこの国の国債は、償還が進んだり、買い戻されたりして、あっという間に消えて無くなった。  現総理大臣、相田の打つ手は、やることなすこと上手くいっていて、政府の支持率も90%を超えている。外交も含め、ほとんど失敗をしないので、相田首相には、未来が見えているのではないかとの噂が流れるほどだった。  スラックスの太ももの辺りに、くすぐったい感触。いつの間にか、玉ベエが戻ってきて、山月の体をよじ登っていた。 「そうか、中に、客は誰もいなかったか」  耳元で、そう報告を受けると、ひまわりの種を与え、玉ベエをベルトの皮バックに戻す。  山月の緊張は、少しだけ解れたが、全快ではない。  警備課の(いち)SPが、警視総監に呼び出されることなど、聞いたことが無いし、ありえないと思っている。
/128ページ

最初のコメントを投稿しよう!