1.総監の犬

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 皆、恐れ多くて「警視総監」と役職で呼んでいる相田のことを、目の前の男は「相田さん」と呼んだ。  長髪の男から目を逸らす。山月よりも若そうなこの警官が、雲の上の存在である警視総監と親しそうな理由は、何だろうか。  山月は、今朝、相田から電話があり、ここに呼び出された。直接かかってきたのは初めてで、用件を教えてもらえていない。あらゆる可能性を考えて、それぞれの模範解答を準備してきたが、見たことの無い男の出現は想定外だった。 「なぁ、ダーツで勝負しようぜ。オレもまだ、この店で投げたことはないんだ。条件は一緒だぜ」 「お、お前は、いったい誰だ? どこの部署のモンだ?」  山月は、馴れ馴れしく肩を組んでくる男の手を払い、睨みつける。ため口なのも、気に喰わない。 「そ……そっか……まだ、名乗って無かったな、ゴメン、ゴメン」  長髪の男は、頭を掻きむしった。はらはらとフケが落ちる。
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