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沙羅は、家に飾ってある写真を毎日うれしそうに眺めていた。メンバー全員で同じ衣装を着て撮られたそれは、沙羅にとって勲章のようなものだったらしい。
『おねえちゃんはアイドル。みんな、おねえちゃんのおうたをききにきたんでしょ。わたしもいつか、アイドルになるんだ。おねえちゃんみたいに、みんなをえがおにするの』
そう言われて、不快さはまるでなかった。
『そうだよ。みんな、私の歌を聴きに来てくれてた』
嘘をつくことが、妹の夢を守ることだと思っていた。心の中で自分を笑いながら、私は何度も「練習生」として見てきた光景を自分の武勇伝のごとく語った。どれだけ人気があったか、どれだけCDが売れたか、どれだけ多くの人からプレゼントをもらったか。
すべてを嘘で塗り固めた。仮に将来「お姉ちゃんは嘘つきだ」と言われたとしても、その時その時の沙羅の夢を壊す真似はしたくなかった。
私は妹の前で何度も歌い、何度も踊った。有名アイドルグループの振り付けも練習し、私の方が上手く踊れるよと見せ続けた。
『おねえちゃんはすごい!』
何度そう言われただろう。
『おねえちゃんはかわいい!』
何度そう言われただろう。
決して鼻を高くせず、何もかも沙羅のために、偽りの元売れっ子アイドルを演じた。メンバーの一人がルールを破っていなければ、この子の前で正規メンバーとして唄ったこともあったかも知れない。そうなると、いかにイベントが過疎だったか、いかにコンサートが盛り上がらなかったかを知られていた。そう思えば、グループが解散して良かった。あの程度の地道すぎる活動では、全国区のアイドルになんか到底及ばないからだ。
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