葬送不悔(そうそうふかい)

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 やがて、参列者がそれぞれの席につき、静かに葬儀が始まった。  仏教は仏教でも何の宗派か分からないお坊さんが、眠くなるようなお経を唱える。何を言っているんだか全く聞き取れないし、わずか五歳の沙羅がこれを聞いて本当に成仏できるのか疑わしい。あの子はもっと明るい曲が好きだった。ザ・アイドル曲という感じのポップな曲。この念仏は、沙羅の好みと対極だ。湿っぽいお経ではなく、気持ちが高ぶって昇天するような曲がいいんじゃないか。私は何だか冷静に、そんなことを考えていた。  焼香の時間があり、母の挨拶を終えて(のち)、参列者が沙羅の(ひつぎ)に花を供え、棺を載せた車が火葬場へと向かう。  正雄さんは小型のバスをチャーターし、何割かの人を火葬場へ運んだ。残る何割かの人はそれぞれの車でそこへ向かった。  炉の前で儀式を行い、棺は炉に納められた。  そして沙羅が炎によって焼かれているあいだの食事。  その後の骨上げ。    元から小さかった沙羅は、黒ずんでより小さくなり、小さな骨壺へと入った。    母は涙に(むせ)び、親族や参列者も同様に哀しんでくれた。  だけど私は、どれだけ泣こうとしても泣けなかった。  心の中では、「哀しすぎるから泣けないんだ」と繰り返し呟いた。  たった一人の妹を(うしな)ったのだ。  母と私で五年間育てたのだ。  ペットだって三日も飼えば情が湧く。それが人の気持ちを理解し、人の言語を話し、私をまるで憧れの存在のように慕ってくれた妹が死んで、哀しくないわけがないじゃないか。  胸全体が、空洞になってしまったようだった。そこに頭も、腕も脚も、感情や思い出も何もかもが入っていってしまいそうだった。  そうなれたら楽だよなあ、と考えた。でも、そうしたら私が生き残った意味って何だろうとも思った。
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