葬送不悔(そうそうふかい)

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 私はロコドルの「練習生」だった頃、プロデューサーの猪野に(そそのか)されて性的関係を持った。一度や二度じゃない。何度もだ。そのたびに数万円のお金を貰い、ただ寝ているだけでいいからと行為を受け入れていた。  徐々に猪野は避妊しなくなり、当然のごとく私は妊娠した。  でも、両親に言うことができず、友人にも言うことができないまま、不安ばかりを抱えて、今考えればどうしようもなく無用な時間を過ごしてしまった。  国の法律により、妊娠二十二週目以降は中絶できない。あるいは私は、その日がくるのを心のどこかで待っていたのかも知れない。  妊娠二十三週目、私は猪野に妊娠したことを告げた。もう法的に中絶できないことと、できるなら産み育てたいことを伝えた。猪野が正式に私の夫となり、私も子も守ってもらえると馬鹿みたいに期待していたのだ。
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