葬送不悔(そうそうふかい)

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 黒い喪服を着た親戚や知人、それらに混ざり、幼い子らも涙を浮かべている。  犯人のいない事故だった。警察の捜査も、単に哀れな事故として深追いをせず、今日、私の妹である()()は、()()()されることとなった。  幼稚園の庭に低く盛られた土の山。園の子どもたちはそれを「おやま」と呼び、ぐるぐると駆け廻りながら遊ぶ。各種規制の厳しいこの時代、その「おやま」はまったく危険性のあるものではなかった。丘と呼ぶほどのものでもなく、高さにして3メートルもなかっただろう。勾配は緩く、裾が広い。ソリで下ろうとしても途中で止まってしまうぐらいに安全で、無害なもののはずだった。  でも、沙羅はその「おやま」の(いただき)で足を滑らせ、転落してしまった。咄嗟に手をつくこともできず、まるで崖から落ちるような速さで、跳ねながら、弾かれながら、頭から地面に激突した。  誰かが悪戯(いたずら)で突き落としたわけではない。  当然、沙羅が自ら死のうとしたわけでは決してない。 「おやま」の頂が(つまず)きやすい状態であるわけでもなかった。    沙羅は、一人で歩けるようになって以降、何もないところでもよく転ぶ子だった。  保育士の方々が複数、そのときのことを証言した。警察の取り調べに対して、証言のどこにも矛盾がなかったという。警察は次いで、沙羅と一緒に「おやま」に上っていた子らにも話を聞いた。そこにも矛盾はなく、園児たちは口を揃えてこう言ったそうだ。 『さらちゃんは、おねえちゃんのじまんばなしをしてたんだ。すごくきれいで、むかしはアイドルだったんだって。そのはなしをしたらとまらないの。CDもだしたことあるんだっていってた』
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