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「それから、苺プリンカフェを」
それを聞いたぷりんは満面の笑みを見せた。そして、俯いたまま元気のない声で述べた。
「いつもね『ポテトフライにドリンクバー』だけ頼んでママ仕事行っちゃうの」
ファミリーレストランで一晩を過ごす貧乏大学生の定番メニューじゃないか。自分の娘が食べるものなんだから、もう少しはマトモなもの頼んでやれよ……青年は心の中で舌打ちを放った。
たったこれだけ注文して、娘一人ファミリーレストランに放ったらかしで自分は男と懇ろとは…… ぷりんには同情を禁じえない。
満面の笑みを浮かべながら注文を待つぷりんの姿を見た青年は微笑ましくも悲しい気持ちになるのであった。
ハンバーグランチセットと苺プリンカフェが席に届けられた。苺プリンカフェをぷりんの前に置いた。
「食べな? 冷たいうちに食べないと美味しくないよ?」
その瞬間、青年は激しい便意を覚えた。先程まで飲んでいたドリンクバーのジュースが冷たいものばかりだったせいか、腹が緩くなったのである。
青年は慌てて立ち上がり「ゆっくり食べてていいよ。後、荷物見といて!」
と、ぷりんに言い残し、トイレへと駆けていった。
用足しを終えた青年は席へと戻った。そこにぷりんはいなかった。おそらく、親が言うより早く迎えに来て帰ったのだろう。俺を待つこともせず、一言の声掛けもなく帰るとはお里が知れる。だが、子供である故に仕方ない。
青年は何とも言えない気持ちを胸に懐きながら椅子に腰を下ろした。そして、ハンバーグランチセットを瞬く間に完食するのであった。
青年はいつか自分に子供が出来たならば、ああいった目には遭わせなくないと考えながら修士論文の作成の続きに取り掛かっていた。作成が進み、目が疲れてきた辺りで青年は一旦手を止めた。すると、手がつけられていない苺プリンパフェが目に入った。
「もったいねぇな」
見ず知らずの少女の残り物を手につけるようで憚られるものがあったが、口はつけられていないことから特に抵抗もなく、青年は残りの苺プリンカフェの処理を行った。
ぷりんが去ってから時間が経っていたせいだろうか。プリンもクリームも溶け苺もパフェグラスの底に沈み、生ぬるく苺の甘酸っぱいミルクセーキを飲む感覚になっていた。作りたてを食べることが出来れば、プリンのカスタードとカラメルの甘さと苺の酸味の甘酢っぱさがよく合った逸品だっただろう。
青年は一番美味しい時にぷりんにこれを食べて欲しかったと考えるのであった。
「甘酸っぱくて、ぬるいや」
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