夏の夜は暑くて寒い

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 後日、大学にて青年はファミリーレストランで起こった不思議な話を友人に聞かせた。その友人、大学の近くに実家を構える昔からの地元民である。友人は話を聞き終わるなりに手をぽぉんと叩いた。 「ああ、見ちまったな。お前」 「何をだよ」 「出るんだよ、あのファミレス」 「出るって何が?」 友人は両手を下垂手(かすいしゅ)に構えた。下垂手とは、手首と指が下に下がった状態のことを言い、簡単に言えば「幽霊の手の構え」のことである。 「マジで?」 「あのファミレスな、元々は別の店だったんだよ」 「ドミナント戦略に負けたの?」 「いや、そういう訳でもないんだけどな」 「だったら、何があったんだよ?」 「俺もニュースで見ただけだから、詳しいことは覚えてねえけど…… 夜中に母娘連れでファミレスに来てな? カーチャンの方はそのまま、お仕事に行っちまった。いつものことでな、店員も何度か夜中に放置されたその娘さんを警察に保護して貰ってたらしいぜ?」 青年の胸に嫌な風が吹いた。胸が冷たく締め付けられるような感を覚え、思わず胸に手をあててしまう。 その娘の名前に見当がついていたのだが、それを言い出せば全てが終わるような恐怖に襲われた。青年の全身が震え上がる。 「大丈夫か? 顔真っ青だぞ?」 「……いや、いい。続けて」 「ああ、その日…… カーチャンはその日は娘さんを一晩迎えにこなかったんだ。理由は察しろとしか言いようがねぇ。その一晩が最悪だった、その娘さん亡くなっちまったんだよ。丁度こんな夏の日の夜だ」 「どうして?」 友人は横に首を振った。そして、憂いを含んだ目で青年の顔を眺めた。 「詳しいことまでは新聞にも書いてなかった。とにかく『急死』ってやつだ」 「……」青年は言葉を失ってしまった。
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