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夏の夜は暑くて寒い
大学生の青年が夜中のファミリーレストランにてノートパソコンの鍵盤を叩いていた。
青年は夜の10時過ぎに来店し、食事とドリンクバーを注文した後はノートパソコンの天蓋を開き、カタカタと鍵盤を叩き続けている。
青年は大学の修士論文の作成に多忙を極めていた。夏休み真っ最中にもかかわらずに大学の図書館にて論文の作成を行う程である。大学も閉まり、帰宅しようと考えたのだが、青年の使う電車の線路の上に木が倒れてしまい。復旧にかかる時間も未定故に帰宅を諦めた。タクシーを使うことも考えたが、青年の財布の中はこの真夏とは正反対な真冬の寒波が襲来中、とてもではないがタクシーを使っての帰宅は無理であった。
バスの振替輸送も青年の家の最寄り駅までは運行しておらず、手も足も出ない状態。
昨今の夏は夜中でも暑い。昼間程ではないが、ムシムシとして暑い。大学から駅までの僅かな距離を歩いただけで全身に汗が滲むほどである。
どうしたものかと大学の最寄り駅周辺を歩いていると、一軒のファミリーレストランが目に入った。つい最近出来た新店舗である。
「明日もどうせ、大学行くんだし…… 一晩お世話になるか」
このような訳で青年はファミリーレストランに身を預けるのであった。
大凡二時間程、鍵盤を叩き、時間が天辺を迎えようとした時、青年は大欠伸をしながらディスプレイの隅に表示された時計を一瞥した。
「11時50分か、少し寝ようかな」
ここで眠りたいところだが、青年は修士論文の作成で切羽詰まっている身。
徹夜作業で仕上げなくてはいけない。
青年は気付けのためにドリンクバーの炭酸飲料を入れてくることにした。コップになみなみと炭酸飲料を注いで席に戻ると、そこには一人の少女がすーすーと寝息を立てて座った体勢で眠っていた。少女と言っても中高生といった感じではなく、ピンク色の薄手の子供服を纏った風体で、見た目は幼稚園児…… 大きく見ても小学校低学年の児童ぐらいである。
席を間違ったのだろうか?
それにしても、こんな夜中に子供一人でファミリーレストランとは不自然だ。親が連れてきているのならば、そいつはきっとロクでなしの親に違いない。
全く…… 俺達が思う「馬鹿だ馬鹿だと思っていた尊敬の出来ない先輩」が親になればこうもなろう。と、青年は少女の親に対して呆れの感情を覚えるのであった。
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