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☆☆☆
結局昨夜はあのまま、俺のマンションにお泊まりした美羽姉。俺のシャツを色っぽく着こなして朝ごはんを作る様子を眺めているだけで、感極まって涙が出そうになった。
美羽姉と結婚したら、毎朝これが見られるんだなぁって。
(俺の女なんだぞっていう印をつけたくて、首から下の見えないところに、キスマークをたくさんつけたのはいいけど、美羽姉が着てるぶかぶかのシャツの隙間から、五個も見つけてしまったんだよな。次回は自重せねば……)
「白鳥、ちゃんと集中しなよ。マークしてるターゲットが出てきた」
一緒に組んでいる、ひとつ年下のライターの若槻さんに叱られたので、驚きながら気を引きしめる。
「ごめんっ!」
慌ててカメラのファインダーを覗いて、ターゲットの様子を確認したが、ひとりきりで、さっさとどこかに向かってしまう。そのことに安堵して、ファインダーから顔をあげた。
「白鳥ってば、そんなチャラついた格好してから、どことなく浮ついてるよね」
「チャラついてって、そんなこと――」
この姿は、アバズレを落とすための格好――傍から見たら、そういうふうにとられてしまうことを思い、元に戻すのも考えたのだが。
(パーマが落ち着いてくる頃に、髪色も元の色に近づいたとき、今よりももっと素敵に見えるかもねって、変身前に美羽姉が言った関係で、そのままにしてるんだけどさ)
口ごもった俺に、若槻さんは追い打ちをかける。
「しかも、あの一ノ瀬さんと一緒にいることが増えててさ。どうせ、女のコをまわしてもらってるんでしょ」
「違うよ。そんなんじゃない」
「そんなチャラついた格好しなくても、真面目でイケメンの白鳥なら、以前のままでも女のコが寄ってきてたんじゃないの? まぁ寝癖と服装はアレだけどね」
デフォルトになってる感想に、苦笑いを浮かべながら事実を答える。
「一ノ瀬さんには、その……。彼女の相談にのってもらってただけだし」
「やっぱり女のコ絡みじゃん。仕事のときくらいは、ちゃんと集中してよ。張り込んでたのに写真はありませんでしたじゃ、話にならないんだからね」
「ホントごめん……」
助手席で居ずまいを正して、後部座席にいる若槻さんに頭をさげた。
「ターゲットが出て行ったし、今はそこまで集中しなくてもいいけど。彼女の話って、私にはできない? 同性目線で、教えられることがあるかもよ?」
さっきのキツい口調じゃなく、優しさを感じる問いかけに導かれて、縋る気持ちで喋りかけた。
「あのね俺の彼女、6つ年上なんだけどさ。少しでも隣に並べる、大人の男になりたいなって」
「ふぅん。それでその見た目にしたんだ。確かにちょっとだけ、大人っぽくはなってるけど」
「…………」
「隣に並べる大人の男って、見た目だけのことじゃないでしょ?」
「うん、そうなんだ」
大人の男という言葉の意味について、若槻さんがきちんと反応してくれたことに、ほっと胸を撫で下ろす。同性目線で、いい意見を貰えそうな気がした。
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