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「私から見て、白鳥が充分に大人の男って感じに見えるのは、やっぱり私が年下だからなのかもしれない」
「そうなの?」
「うん。私の知ってる同じ年代の男のコと比べたら落ち着いてるし、ちゃんとしてるなって思うよ」
「そうなんだ……」
(同性目線でも、やっぱり年齢の違いは大いにある。どうしたもんかな――)
パーマが緩んできたせいで前髪が目の前を覆い、ちょっとだけウザいなと思いながら引っ張っていると。
「でもあの一ノ瀬さんに相談するのは、人選が間違ってるって。女たらしで有名な人なのに」
「女たらしというよりも、恋愛経験が豊富な感じなのに」
不快感を示すように顔を歪ませて告げられたセリフに、即座に反論した。
「これだから白鳥は、世間知らずって言われるんだよ。騙されても気づけないっていう」
「一ノ瀬さんのおかげで、長年片想いしてた相手と付き合えることになったんだ。恩人のことを悪く言いたくない」
語気を強めた俺に、若槻さんはどこかバカにするような視線を、小首を傾げて投げかける。金髪に近い茶髪がカーテンのように揺れた。
「へぇ。一ノ瀬さんから、モテるテクニックでも教わったの? それとも違うテクニックだったりして」
「一ノ瀬さんの観察眼は、本当にすごいんだ。それに俺にはない、年上の渋さっていうか魅力だってある。だからそれがわかる女性が引っかかっちゃうのは、当然じゃないのかな」
フォローになりきれない言葉が次々と出てしまったものの、決定打に欠けるものばかりで、中途半端になってしまった。
「あーあ。白鳥はカメラマンの中でも、まだマトモだと思っていたのに残念。というかこの仕事をしてる私も、大概マトモじゃないけど」
「そんなことないよ……」
「普通に仕事をしてる人間から見たら、マトモじゃないでしょ。ゴシップ記事を世の中に提供して、いろんな人間を貶めてるんだから」
「それだって、ちゃんとした仕事だと思う」
「ウチらにとってはそうだけど、世の中の人みんなが認めてくれるわけないじゃん。そういえば先週出したウチの雑誌、また完売したんだってね。上條良平のおかげで」
平行線になると考えたのか、違う話題を提供されてしまった。
「うん、そうみたいだね。ネタとしては下火になりかけていたのに、今回のインタビュー記事でまた再燃したっぽい」
「奥さんの春菜に刺されたっていうのに、離婚しないなんて、なにを考えてるんだろ。戻ってきたら、ボコボコにしてやろうなんて考えてるのかも。でも左半身の麻痺があるんだった。それは無理か」
俺はなにも答えずに、俯いたまま助手席に座り直した。
『それは、傷ついた美羽を見たくなかったから。俺が春菜と一緒になれば、もうおまえは傷つくことがないと思って』
美羽姉に思いっきり拒絶されたというのに、未だにアバズレと夫婦でい続ける意味――上條さんは、まだ美羽姉のことを愛しているんだろう。美羽姉を徹底的に傷つけて、自分から捨てたクセに、愛してるっていう証明をこれからも無駄に続けるつもりなのか。
見えない脅威に、下唇を噛みしめる。昔愛し合ったことのあるふたりだから、なにかがキッカケでもとに戻る可能性がなんて考えたら、本当にキリがない。
「若槻さん、ちょっとトイレに行ってくる」
鬱々しかけたのを感じ、気分転換しなければと理由をつけて、外に出る。
「白鳥、ついでに」
「アイスでしょ? チョコの入ったいつもの」
「わかってるー! よろしくね」
頼まれたことをやるべく車から勢いよく飛び出し、コンビニに向かう。
愛することは、誰かと競うことじゃないのがわかっているのに、負けたくない気持ちをどうしても隠すことができなかった。
「なんで、こんな気持ちになるんだろ……」
どうしたらこの感情がなくなるだろうかと、しばらくの間、考え込んでしまった。
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