朽ち祠の手

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インターネットが普及し、誰もがスマホを持っていることが当たり前になったこの時代にも、ファンレターというものを頂くことがある。 節操もなく批評が書き立てられているから見ない方が自分のためだぞ、と友人作家から聞いているので、僕は基本的にインターネット上のレビューなどは一切目を通さないことにしている。だからこそ、そのような紙媒体での応援は非常にありがたいことだし、いつも大切に保管している。 だがある時、そのファンレターに妙なことが書かれていた。 以下はその原文である。 いつも楽しく拝読させていただいております。 先生の生み出す怪談は非常に味があり、活動初期から欠かさず読んでおります。ミステリーとホラーが融合したような世界観もあれば、ホラーに振り切った作品も味わい深く、楽しませて頂いております。 私が好きなのは、初期の『家』『墓』『館』の一文字シリーズはもちろんのこと、最近だと『廃遊園地』も奇想天外でとても面白かったです。 先生の数多くある作品はどれも素晴らしいのですが、やはり一番印象に残っているのは『朽ち祠の手』でしょうか。あれほど恐ろしい作品はこれまでに読んだことがありませんでしたから、とにかく夜中震えあがって、あの時は眠れなかったのを覚えています。 暑い日が続きますが、これからも頑張って下さい。応援しています。 一見すると普通のファンレターのようにも思える。しかし、妙なことがある。僕は『朽ち祠の手』などという作品は書いた覚えがないのだ。 もちろん僕とて、全ての作品を記憶しているわけではない。長編はともかく、短編は自分でも数えきれないほど書いてきたし、単行本に拾い上げられているものならまだしも、雑誌にしか掲載されていないものに関しては流石に忘れてしまっているものもあるとは思う。 しかし、どうにも引っかかるのがタイトルだ。僕はどの作品もタイトルは極めてシンプルなものにするようにしている。手紙の中であがっていた一文字シリーズはその最たるものである。 だから、『朽ち祠の手』などという凝った題を僕がつけたということそのものに、違和感があるのだ。
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