朽ち祠の手

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とはいえ、もしかすると、かなり前のまだ作風が固まっていない頃に、そんな題をつけたという可能性も考えられる。だが、もしそうだとしても、本当に僕には心当たりがなかった。祠はホラーの定番なので作品の中で触れたことは何度もある。しかし、このタイトルのように祠を全面に押し出してメインテーマとして書いた小説には覚えがない。僕にとって祠は怪奇を演出するための一つの道具であり、それを題材に何かを描こうと決心した覚えもない。 ホラー系の短編小説は正直似たり寄ったりな作品も多いので、誰か他の作家のものと混同してしまったという可能性もある。だが、そうなると僕の作品はそれよりも劣っているということになる。 僕が気になっているのはそこだった。この手紙の送り主は、その『朽ち祠の手』を最も怖い作品だと評していた。僕の作品よりもはるかに怖くて、夜も眠れないほどだというのだから、怪奇小説家として興味を抱かない筈がない。 ということで僕はさっそくこの手紙の主に返事をしたためたのだった。 お手紙ありがとうございました。 いつも僕の拙い作品を読んでくださっているとのことで、とても嬉しい気持ちになりました。ところで、先日の手紙の中で最も怖い作品だと評価してくださっていた『朽ち祠の手』はどこでお読みになられたのでしょうか。僕自身、単行本に掲載していない昔の短編は忘れてしまっているものがあるので、確認していただけると嬉しいです。 するとその数週間後、 お返事ありがとうございます。まさか先生から返事が来るなどとは夢にも思わなかったので、驚いております。先生が尋ねられた『朽ち祠の手』ですが、あれは確か『小説あれこれ』に掲載されていたと思います。できればその雑誌も同封したかったのですが、どうやらそれが掲載されている刊をどこかに紛失してしまったようです。そういうことで、いつの『小説あれこれ』なのかということまでは分かりません。内容もただひたすらに怖かったというイメージしか残っていなくて、具体的なあらすじなどは忘れてしまいました。
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