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「西田くんもなんとなく分かんない?ホラーをやってる人間としてはさ、面白くないって言われんのはまだいいのよ。けど、怖くないって言われるのが一番傷つく。もちろんその子も私の作品が怖くないってことを言いたかったわけじゃないんだろうけど、やっぱ気になるよね」
「それはそうかもしれないですね」
「で、その子が言う作品よりも特別怖い話を書こうとして、自滅」
Yは自嘲気味に言ってサンドイッチにかぶりつく。
「ところで、その友達の言う作品って、何だったんですか?」
「『朽ち祠の手』よ」
「…えっ」
僕は突然のことに言葉を失った。
「なんかね、会社をクビになって、妻子にも逃げられて、死に場所を探してふらふら歩いてたおっさんが森の中に迷い込んで、そこで祠を見つけて…」
僕は固唾を呑んで聞いていたが、彼女は途中で話を中断した。
「…何だったかしら。続きが全く思い出せないわ。でも、『朽ち祠の手』っていうくらいだから…」
「そこから手が出てきたんでしょうか」
「でしょうねぇ…確かなことはわからないけど、とにかく、その子の言う通り、震え上がるほど怖かった。それは間違いない」
「なるほど…その話は何かの雑誌に載っていたものなんですか?」
「いや、雑誌じゃなくてあれは単行本だったと思うわ」
「単行本、ですか」
「ええ、あの子が私に読んでみてくださいって本を渡してきたのは覚えてるもの。だから間違いないわ」
「それ、もしまだその友人の方が持っておられるなら、少しの間貸してもらえませんか?」
「なに、西田君もあの話に興味あるの?」
「え、ええ。Yさんの話を聞いて、何だか読んでみたくなって」
「うふふ、やっぱり西田君は根っからのホラー作家ね。けど、残念ながらその子はしばらく疎遠になってるから、どこに住んでるかは分からないわ」
「そうですか…」
僕はその後ももう少しYに話を聞いてみたが、新しい情報は何も得られなかった。
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