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(どういうことなんだ…)
僕はその日、例の小説のことばかりを考えて、夜もまんじりともしなかった。
(おかしい…あの手紙では『朽ち祠の手』は『小説あれこれ』という雑誌に掲載されていたと書いていた。それなのに、単行本にあるだなんて…)
僕は単行本ならすべて家に保管しているので全作品を確認できるが、もちろんそんな題の作品はひとつもなかった。
(なら、一体何だって言うんだ…)
僕は居ても立っても居られなくなって、ベッドからむくりと起き上がるとデスクのパソコンを起動させた。そして、検索エンジンで『朽ち祠の手』と入力した。
検索は何件かヒットした。その多くがインターネット掲示板だった。
『怖かった小説』というスレッドの立った掲示板で、
13 名無し 2004/05/12
ワイはあれが一番怖かった。シンシア・アスキスの『淑やかな悪夢』の中に載ってた、『朽ち祠の手』ってやつ。とにかく怖すぎて、本当にそのあとしばらく家から出られなくなった。
僕はわけがわからなくなった。僕はこのシンシア・アスキスを知っているし、『淑やかな悪夢』も図書館で借りて読んだ覚えがある。しかし、そんな話は絶対に載っていなかったはずだし、そもそもアスキスはイギリスの作家であり、『祠』を取り扱った作品を書くのは違和感がありすぎる。
(雑誌だったり、単行本だったり、まったく関係のない作家だったり…一体、何がどうなってるんだか…)
ちなみにこのコメントに対しては、
52 名無し 2004/05/12
〉〉13 アスキスの作品にそんなものはありませんよ。何をふざけたことを言ってるんですか。
と返信が書き込まれていた。だが、他の掲示板にも、
19 名無し 2006/08/24
江戸川乱歩の『芋虫』の中で一番怖かったのはやっぱり『朽ち祠の手』ですよね。
とまたしても絶対にあり得ないことが書き込まれていたり、他にも子供のころ朗読会で聞いた、とか、誰それの怪談師がイベントで話していた、とか、その出所は多岐にわたっていた。
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