朽ち祠の手

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だが、そのあらすじに関してはどれも似たようなものだった。 とにかく色々と辛いことに見舞われて精神的に追い詰められた中年の男が祠を見つけて…というくだりは、ほとんどYが語ったものと相違なかった。 僕はどんどん意味が分からなくなっていくばかりだった。いったい『朽ち祠の手』とは何なのか。あちこちで散見される書き込みはただの悪ふざけなのか。 それとも、その『朽ち祠の手』とやらがまるで旅をするかのように、あちこちに出没しているとでもいうのか… 僕は途端に気味が悪くなり、とにかく今日のところは深く考えないことにしようと寝室に戻って布団を深く被った。 「なんだか、『牛の首』みたいな話ですね」 一人で抱え込んでいるのも恐ろしくてたまらないので、僕は一連の出来事を村上君に話してみた。 「確かにそうだな…」 『牛の首』といえば、古くから伝わる都市伝説で、簡単に内容を説明すると、『牛の首』というとても恐ろしい怪談があり、これを聞いた者は恐怖のあまり身震いが止まらず、三日と経たずに死んでしまう。怪談の作者は、多くの死者が出たことを悔い、これを供養するため仏門に入り、人に乞われても二度とこの話をすることは無く、世を去った。この怪談を知るものはみな死んでしまい、今に伝わるのは『牛の首』と言う題名と、それが無類の恐ろしい話であった、ということのみである、というものである。 そのあとも二人でしばらく話し合っていたが、何かひとつの答えが導き出されることはなかった。ただ、他人に話をしたことで、少しだけ気が楽にはなった。
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