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どうやら、一番鈍かったのは僕だったようだ。あとの二人はもっと早い段階で、この肝試しがおかしいと気づいていたらしい。
『窓ガラスにさ、変なものがたくさん映ってたの。なんか、子供の顔みたいなの』
青ざめた顔で、ミカは語った。
『それにさ、よくよく考えたら何か変だなって。あたし達、子供の頃からじいちゃんの村に毎年来て遊んでるんだよ?こんな廃校の存在見落とすっておかしくない?そう思ったら、なんかすごく怖くなっちゃって』
『オレも同じこと気になったんや。そもそもこないなオモロイところがあるんなら、てっくんはもっと早う肝試しにオレらを連れてきてると思う。……この廃校が、今夜急に現れたとしか思えへんかった』
それに、とスバル兄も続ける。てっくんの様子がずっと変だと思っていたという。それは、去年までの百物語やこっくりさんを見ているから余計に、だ。てっくんの性格なら、肝試しをやろうと言っているのにあんなふうにべらべらと面白い話をして雰囲気を和らげたりしない。怪談を話してもっとみんなを怖がらせるならともかく、まるで自分たちが怖がって帰ってしまうのを恐れているようだったのが変だった、と。
そもそもそれよりも前に、子供が毎年三人生贄にされるという話をしておきながら危機感がないのが引っかかったと言った。まるで、自分だけは助かることがわかっているような口ぶりだったと。
『トドメが、てっくんが右手でずっと懐中電灯持ってて、しかも右手でノブ回そうとしたことや。……てっくん、左利きやし、矯正はしてへんかったはずやで』
決定的な証拠があったわけではない。それでも本能が鳴らす警鐘に従ったのだとスバル兄は言った。そしてその判断は正しかったわけだ――本物のてっくんは、今年この村に遊びに来てなんかいなかったのだから。
『もう二度と、夏の夜に肝試しなんかするんじゃないぞ』
あの廃校はそもそも、二十年以上前に取り壊されてなくなっていたはずの場所だった。
その年、じいちゃんは僕達を叱らず、代わりに泣きそうになりながら抱きしめて言ったのである。
『頼むから、もうしないでくれ。じいちゃんは、お前達にきちんと生きて大人になってほしいからな』
偽物のたっくんが語った話がどこまで本当だったのか、あれから半年過ぎた今もじいちゃんに訊けずにいる。
毎年本当に、あの地で未だに子供が消えていたのかどうかも。
ただ、スバル兄いわく。あの夜偽物のてっちゃんは別れ際にこう言っていたそうだ。
『来年また、待ってるからな』
来年の夏再びあの村に行くのが、僕は少しだけ怖い。
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