ひきかえす。

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ひきかえす。

「というわけで、肝試ししようぜ!夏の夜と言ったらやっぱコレだろ!」 「……言うと思った」  悪戯大好き、てっくんの性格はもう嫌というほどわかっている。僕と、妹のミカ、従兄弟のスバル兄は三人で顔を見合わせて苦笑いした。まあ、わかっていて呼び出しに応じたのは僕達なのだから、結局共犯も同然なのだが。  夏休みにおじいちゃんの家に集まった僕達は、みんな親戚同士という関係である。普段は僕とミカの一家は東京に住んでるし、スバル兄は大阪。てっくんも今住んでいるのは神奈川なので、夏休みのこの時期だけこのド田舎の村にやってきているというわけである。  小学校五年生の僕とてっくん、ミカは二つ下の小学校三年生。スバル兄は中学一年生で、みんな比較的年が近い。特にてっくんの一家が海外から転勤で神奈川にひっこしてきてからの三年は、夏のたびに顔を合わせては一緒に悪戯をして、家族に叱られるというのがしょっちゅうなのだった。トラブルメーカーでムードメーカー、てっくんと一緒にいるとおじいちゃん達から雷が落ちることもしょっちゅうだったが、おかげで間違いなく夏休みが楽しくなっているのは間違いない。てっくんと一緒なら、スマホの電波も弱くコンビニも殆ど無いような田舎も退屈せずに過ごすことができたのだ。  そんなてっくんが、僕たちに夜集まるようにと招集をかけた。また何か悪巧みを考えているのは明白である。三人で“今年は何をやるんだろうね”と話していたが、僕の予想が大当たりだったと言うわけだ。 「てっきり、あたしは去年肝試しやると思ってたー」  高飛車で生意気な性格のミカは、自分の予想が外れたのが不満だったらしい。ぷう、と頬を膨らませている。ちかみに僕達がスマホや懐中電灯を装備して集まったのは駅前だった。駅と言っても無人駅だし、夜の十一時にはもうとっくに電車も動いていないので人気なんてなかったが。 「だから逆に、てっくんは興味ないのかと思ってたのに。逆張りしすぎたー」 「あはは、去年も企画してたんたぜ、俺。でもいい肝試しスポットを選定するのが間に合わなくてなー。仕方なく百物語になったわけだ!」 「その前の年はこっくりさんやったけどね。ホラー好きすぎやろてっくん」  豪快に胸を張って笑うてっくんに、苦笑いするスバル兄。そう、むしろてっくんが三年過ぎてから肝試しを言い出したのは意外なことかもしれなかった。怖い話が大好きな彼ならば、もっと早く言い出すと誰もが予想したからである。 「ふふん、期待にお答えして今日はいい場所をご用意しましたとも」  芝居がかった仕草で、びしり!と彼は北西の方角を指さした。 「すなわち、廃校!肝試しつったらやっぱりこれだろ!!」
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