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「びえええええええええん!」
「はい、うるさい。大学生の男が噴水みたいな泣き方すんな」
「ふえええええええええええん!海翔がつべたいいいい!かき氷もつべたいいいいいい!!」
「ハイハイ」
夏祭りの夜。屋台通りから少し離れた休憩スペースのベンチで、ものすごい大泣きしている聖治。僕はめちゃくちゃ他人のフリしたいと思いつつ隣に付き合ってあげている。――周囲の人の目が痛すぎる。いろんな意味で。
「去年の海でも駄目だったし、一昨年の山でも惨敗したし、今年こそはうまくいくかと思ったのに!夏祭りマジックなんで発動しねえのお!俺の何がいけねえんだよおおおお!」
おいおいと泣く聖治。僕は遠い目をして言った。
「……何がいけないんだろうな」
確かに、彼は外見は悪くない。顔だけなら充分にイケメンな部類だろう。問題は。
――どっからつっこめばいいんだ、どっから。
アメフト部で鍛えた筋肉むっきむきの大柄な体躯。
時代錯誤のリーゼントに無骨なサングラス。
派手派手なアロハシャツに、まるで刺青のように見えてしまう腕に貼ったステッカー。
そのくせドスのきいた声(照れ隠し)で“俺と朝までパーリナイトしませんかぁ?”と言いながらガンつける(照れ隠し)とくれば。
――それで引っかかる女もやべえだろ……。
何で夏祭りにそのスタイルで行こうとしたんだ。あともう少しましな台詞は考えられなかったのか。もはや不審者以外の何者でもない。毎年同じような理由で失敗しているし、僕もそれとなく指摘しているのに何で繰り返すのだろう彼は。
「あのー、すみませんそちらの方、ちょっといいですか」
「え゛」
パトロールしていたお巡りさんの職務質問が始まるのは、この五秒後のことでしたとな。
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