絞りの浴衣

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絞りの浴衣

私は、紺地に、赤や黄色の蝶々柄の浴衣を着て、ピンクの兵児帯(へこおぴ)をつけてもらい、美雪は、向日葵模様の浴衣に、オレンジ色の兵児帯を蝶々結びにしている。 「二人ともよう似合ってる」 「ばあちゃんも、めっちゃオシャレやん」  私が、ばあちゃんの着ている、絞りの浴衣を眺める側で、  「みずたまや」 と、美雪が、絞り模様を指差した。 「ばあちゃんの一張羅(いっちょうら)や」 ばあちゃんは、必ず年に一度のお祭りで、紺地の絞りが、入った上等な浴衣を着る。じいちゃんと結婚した最初の夏に、じいちゃんが買ってくれたと、ほんの少しだけ、頬を染めて話してくれた。 私は、従姉妹のお姉ちゃんのお下がりの下駄を、カロコロ鳴らすと、ばあちゃんの下駄も、カロコロ鳴って、美雪が「ゲタが、うたうたってる」 とサンダルで、スキップしながら笑った。 近所の神社の境内には、イカ焼き、金魚すくい、ヨーヨー釣り、焼きそば屋さん、射的、くじ引き屋さんやわたがし、りんご飴、チョコバナナ、と所狭しとお店が並んでいる。 見ているだけでもワクワクする、一年に一度のお祭りに、私も美雪も大興奮だった。 「わぁ、ばあちゃん、わたがし、こうてー」 「みゆもー」 ばあちゃんは、私達に300円ずつ、(てのひら)に乗せると、 「社会勉強や、ここから見とくから、()うといで」 と、少し離れた杉の木の下で、私達の様子を見ていた。 頭に鉢巻きを巻いた、白いタンクトップの強面のおじさんに、 「いらっしゃい!」 と威勢よく声をかけられる。 びくんと体を震わせると、美雪は私の影に隠れた。 「……あのな、わたがし2こ、ほしいねん」 私は、勇気を振り絞って言葉にだした。 強面に見えたおじさんは、ニッと笑って私達からお金を受け取ると、キャラクターのビニールの袋に入ったわたがしを、一つずつ、手渡してくれた。 何だか凄いことができた気がして、私と美雪は、小さな拳を、合わせてグータッチした。 そして、杉の下のばあちゃんのところまで、全速力で走った。 「上手に買えたやん、えらい、えらい」 ばあちゃんは、目尻を下げると、私たちの頭をよしよしと撫でた。 そのあと、杉の木の下で、わたがしを食べて、ヨーヨー釣りをして、町の人達と盆踊りを踊ると、ばあちゃん()に帰ったとたん、私達は、二人揃って眠ってしまった。 夏が来るたびに思い出す、本当に懐かしい、ばあちゃんとの思い出だ。
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