ばあちゃんの願い

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ばあちゃんの願い

窓の外から差し込んでいた、夕焼けは、あっという間に、月の光と交代していく。 面会時間の終わりが近づく。 「今年は、夏祭りいくん?」 ばあちゃんが、月明かりを眺めながら、ぼそりと呟いた。 「今年は、わからへん、でも行こうと思えば、ばあちゃんが作ってくれた浴衣があるから、いつでも行けるねんけどな」 ばあちゃんの具合が、あまり良くないから、今年の夏祭りは、行かずに、ばあちゃんのお見舞いに来ようと、美雪と話したばかりだった。 「()たいなぁ」 「ん?()きたいなぁ?」 ばあちゃんが、お祭りに行きたいのかと聞き違えた、私は聞き返した。 「絞りの浴衣着たいなぁ、(おも)て。ばあちゃんの一張羅」 確かに、ばあちゃんは、もうこの一年、浴衣どころか、洋服を着ているよりも、病院着を着ていることの方が長くなっていた。 「でも、もう、着られへんわ。浴衣やと、脱ぎ着できへんしな、そもそも、ズボンが、楽ちんや」 眉を下げると、ばあちゃんは、布団を捲り上げて薄いブルーの無機質な病院着のズボンを指差した。 ばあちゃんに、絞りの浴衣を着せてあげたいけど、何て言えばいいか分からなかった私は、美雪をちらりと見た。 余ったリンゴを食べ終わった、美雪がふと、(そら)を見ている。 「美雪?どうしたん?」 「ばあちゃんの話聞いててな、着せてあげれるかもしれんと思ってん」 「え?」 不思議そうにする、私を見ながら美雪が、にんまり笑った。 「ばあちゃん、びっくりすんで、楽しみにしとってな」 「ようわからんけど、楽しみにしとくわ」 ばあちゃんが、驚きながらも嬉しそうに笑った。
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