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―そんなやり取りを経て、現在に至る。
文芸部5名と天文部3名でスタートした合同合宿は、部活というよりもレクリエーションのような形で過ぎていった。あくまで部活動として参加している白梅と明星は各々の分野を研鑽していたが、残りの部員たちは伸び伸びと夏休みを謳歌し、夜になった今も明星の親戚が提案した「海岸沿いのドライブ」に素早く挙手をして颯爽と去ってしまっていた。
その時文芸部の部員の一人が、去り際に「応援してますよ」と白梅に耳打ちをした。白梅は最初こそ平静を保っていたが、その短い言葉に込められたメッセージを噛み砕いていくうちに白い頬はみるみるうちに赤く染まっていった。
そして今、この古民家には白梅と明星の二人だけが残されていた。
虫の声だけが鳴り響く生ぬるい空気の中、未だガチャガチャと手元の望遠鏡と奮闘している明星を視界の端に捉えながら、白梅は数匹蛍が飛び交う庭を眺めた。その光景にふと、藤原定家の和歌が頭に浮かぶ。
”さゆり葉の知られる恋もあるものを 身よりあまりて行く蛍かな”
「(”ひっそりと咲く百合の様に固く秘められた恋心もあるのに、私の恋心は蛍みたいに点滅を繰り返して上手く隠せない”だなんて、上手く言ったものね)」
目線の先で、ようやく組み立てを終えた明星が望遠鏡をのぞいていた。月明りに照らされた横顔がぱっとこちらに振り向き、笑顔で小さく手招きをする。
白梅は縁側から腰を上げると、乾いた地面を踏みしめながら明星の傍へ歩み寄った。なんだか今日の月は一際明るく感じる。その光に導かれるように、明星と白梅は頭上で煌々と輝く満月を見上げた。
「月が綺麗だね。白梅さん」
「そうね。私今なら”死んでもいいわ”」
「えー、さすがに大げさじゃない?」
「……そういうとこよ、明星君」
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