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微かに冷気を孕んだ夜風が風鈴を揺らす。
縁側に置いた蚊取り線香が煙を燻らし、すっと夜の闇に飲み込まれていく様子を隣で眺めながら、制服姿の少女はおもむろに口を開いた。
「明星君。貴方いつまでそうしているつもりなの?」
明星と呼ばれた同じく制服姿の少年は、庭園の真ん中に荷物を広げて望遠鏡を組み立てていた。進みがあまり芳しくないのか、少女の言葉に気づかないまま作業を続けている。やがてしびれを切らした少女がもう一度名前を呼ぶと、手元に注いでいた視線をやっと持ち上げた。
「あー……ごめん、聞いてなかった。どうしたの? 白梅さん」
明星はズレたメガネの位置を戻しながらぶっきらぼうに返すと、白梅は溜息を吐きながら明星の姿を眺めた。
悪戦苦闘しながら望遠鏡を組み立てている明星の頰は紅潮し、ワイシャツの襟の隙間から一筋汗が流れている。
一方、縁側に腰掛ける白梅は汗ひとつかいていない涼しげな表情で本を手にしていた。
どうしてこんなに正反対な二人が共に夏の夜を過ごしているのか、それは数週間前に遡る。
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