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あなたと何度、ここで待ち合わせたのだろうか。
ナナちゃんは今日も大きい。その大きな身体は地面とも天井とも接している。期間限定でその手に持つ大きなケーキはナナちゃん自身のバースデーケーキらしい。
幹也はボウリングが好きで。ナナちゃん前で待ち合わせて、レジャックのボウリング場に行くのが私達の定番のデートコースだった。
「好きな子ができた」と告げられたのは先週だ。月に一度の席替えで、彼が由夏と隣になった辺りから、胸騒ぎはしていた。幹也は私のものだと強調したくて、マウントのようなことを口にした時もあった。
でも、私の抵抗は無駄に終わった。
菜津、と私の名前を呼ぶあなたの声が好きだった。カラオケで歌い過ぎて枯らした、いつもより低い声も、本当に大好きだった。
過去形なんかじゃない。想いは今も変わらない。置いてきぼりの私の恋心、どうしたら消えてくれるの?
通行人が私の顔を見て怪訝そうな顔をしている。私の顔、何か付いてる?
頬に手を当てると指先に水分を感じた。私、泣いてるんだ。どうしよう、止まらない。
幹也、抱きしめに来てよ。私が泣くと、いつも抱きしめてくれてたじゃない。
私を優しく抱きしめてくれる幹也は、もうどこにもいない。
彼が由夏と付き合い始めたと聞いたのは、私達が別れてからすぐだった。
ねぇナナちゃん。あなたの瞳に映る幹也は、私といられて幸せだった?私の隣にいた時の彼は、私と同じように、きっと幸せだったよね?
再び見上げたナナちゃんの表情は、さっきと変わらない。いつも同じ方向を見つめるナナちゃんは、何を思って何を見ているのだろうか?愛しい人を想って涙を流すことはあるのだろうか?
バッグからハンカチを取り出す。手鏡でメイクの崩れを確認して、指先で押さえて何とか元通りにする。
彼はもう私の隣にいない。
こんないい女を振るなんて。絶対後悔させてやる。
名鉄百貨店の化粧品売り場を目指して、私は力強く一歩目を踏み出した。
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