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俺は田畑 充永。
ちょうど桜が色づきだした三年前の今頃、当時は十九歳だった。
そして桜を見て必然と思い出すのは四歳年下の彼女、吾澄 壬冠のこと。
いや…今は彼女と呼んでいいのかさえわからない。だって、会えなくなって三年が経つ。
絶対手離したくなくて、誰にも譲りたくなくて、いつまでも手元に置いておくんだって勝手に決めてた。
任せるからって…言われたはずなのに。
*****
三年前…
一番の矛盾は俺自身だった。
最後に会った日、公園に出かけたっけ。
咲き出した桜の花が淡い桃色をのぞかせ、陽の光を浴びてキラキラと輝いていた。
『躊躇わないで、ちゃんと区切りつけてけよ。俺は、応援してるから』
わざわざ会いに来てくれた壬冠に、なんて言おうか必死に考えた末…。
別れを告げられるくらいなら、少しでも自分が傷つかなくて済むように予防線を張った。
車椅子に乗ったまま、見上げて話すことにも慣れなくて、妙に視線を彷徨わせていた記憶がある。
『………』
なのに…壬冠は放心したかと思うと、みるみるうちに表情を強ばらせていった。
『……だから、そんな落ち着いてるの?』
『え?』
『気持ちよく別れたいと思ったから、そんな冷静だったの?』
言われたことの意味が理解できないまま、ただその強気な態度に圧倒されてしまって…。
『充永くんは私のことが嫌いなの?別れたいって思ってるの?離れちゃうのに嫌じゃないの?!』
『なんだよ急に……』
『なんでいつも私のこと離そうとするの?来て欲しくないとか言うし、触れれば拒むし……なのに急に優しくしたり、笑ってくれたり。わっかんないよ!!』
いつだって気持ちを内側に溜め込む女だったから…まくしたてる姿なんてある意味貴重で。
まさか…離れ離れになるしかない状況で、別れない選択をされるなんて思ってもみなかった。
その瞬間、風がふわっと吹いて桜がキラキラと舞い散ったんだっけ…。
『充永くんが言ったんだよ?俺が生きてる限り離れたりしたら絶対許さないって。もし充永くんが別れたいって言っても私は別れないから!!』
…壬冠がいれば俺は幸せだ。
それが、ほんとうの気持ちだった。
だけどそんな俺の想いも虚しく、家の事情で遠く離れた高校へ通うことが決まっていて、引っ越しだって目前に迫っているはず。
それに加えてここ数か月、まともな関係性を築けていなかったからこそ…確実に俺達は終わると決めつけていた。
だからこそ諦めなくてもいいという選択肢を出されたことにどれだけ救われたか。
でも…ここから三年、どうやって繋ぎ止めておけるっていうんだ…。
すぐに不安ばかりが胸の中を覆い尽くし、口から出た言葉はまた本音から遠ざかった。
『だから……その間なにがあるかなんて』
『私のこと……幸せにするのは俺だって、充永くん言ってたじゃん!!』
でも壬冠はそんな俺の意見は聞き入れてくれそうもなかった。
お互いのために区切りをつける選択の方が最善な気がしてるのは、俺が一方的に不安がってるから行き着く結論なのか…。
するとふっと壬冠が目の前に立ちはだかり、こちらを見下ろしながら頭上に手をのばしてきた。
『………!』
『純潔……って訳にはいかない……のかな』
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