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1.夢か幻か、現実…か?
「はぁ~食った、食った」
膨れたお腹を満足げにさすって、スタスタと歩いていく友人の後ろを追いかける。
「………」
少し前までの俺は、他人のうわべだけの距離や配慮をいちいち気にしていたっけ。
何でもかんでもよくない方に考えて、どうせ俺が悪いんだって決めつけてた。
少なくとも今は、皮肉な受け取り方は減った方だと自覚している。
友人もそれを認識した上で、躊躇なく先を行くのだ。
「なぁ、治田公園でも行こうぜ」
既に車に乗り込んだ友人は、窓を開けてこちらに向かって声を張り上げた。
クラッチ杖をギュッと握って、思わず笑ってしまう。
「成人した男が、二人で公園?」
たどり着いた車に腕をついてもたれかかると、急かすようにエンジンがかかる。
俺の周りにいる仲間は、例え環境や状態が変わっても…全くと言っていいほど遠慮がないらしい。
今となってはそれがありがたいし、特別に扱われないことが何より俺の救いでもあった。
「今さら男二人で、とか疑問に思うところ?」
「…それもそうだな」
気分よく笑いながら助手席に乗り込むと、友人も同様に機嫌よく笑って車を発進させた。
車窓から流れる景色を眺めていると、ふと桜の木が視界にうつる。
「(…三月も終わり、か)」
毎年、桜がヒラヒラと舞い始めると居ても立ってもいられない気持ちになる。
なのに、俺は相変わらず自分の気持ちから目を背けるのが得意らしい。
「ところで、治田公園に何しに行くんだ?」
駐車場に停車してから友人に話しかけると、一瞬動きをとめて、うーんと唸った。
「……………野鳥、見に?」
「は…?冗談よせ」
「知らなかった?俺、小学生の頃に野鳥マニアって呼ばれてたよ」
「…んだそれ、知らねぇよ」
「ま、行ってみようって。天気もいいし散歩、散歩!」
そう言ってそそくさと車をおりて行ってしまう。
ため息をつきながら後を追って、駐車場から続く短い階段をおりていくと…確かに湖面には野鳥の姿が見えた。
けれど───
「(…言ったそばから鳥見てねぇし、あいつ)」
友人はというと、悩ましげな表情で桜の木を見上げている。
「鳥はどうした」
「なぁ、これって開花してる?」
ある程度距離が近づいたところで声をかけるけど、野鳥の件はあっさり無視される。
「…え。開花っていうか、散り始めてね?」
「あ、散り始めか。ふ~ん」
「花に興味なんかあったっけ?」
「おいおい。俺は小学校五年生の時にお花ちゃんって呼ばれてたんだぞ?知らねぇのかよ」
「…脳内がお花畑っつーことだろ」
くだらないやり取りに笑いながら、ベンチに腰をおろす。
「俺ちょっとトイレ行ってくるわ。ラーメン屋からずっと我慢してんだ」
「…は、だったら車から降りてすぐ行けば良かっただろ」
「あはは、確かに。ほら、野鳥見たかったからさ」
「ほんっと適当すぎ」
ケラケラと笑いながら足早に駐車場のほうに駆けていく友人を見送り、湖面の方に視線を戻す。
「どうせただの暇潰しだろ…」
独り言を言いながら、羽ばたいていく鳥を目で追っていると…。
風に舞った桜の花びらが目の前に落ちてきた。
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