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ライザとソニアの会話はなし崩し的に現実味を帯びていった。おおまかにではあるが、集合日時、待ち合わせ場所、当日の格好が決まっていった。連絡先の交換はさすがに早いということで、やりとりはゲームチャットでつづいた。
「ライザ、これはあくまで『対男性非対面コミュニケーションテスト』だ。たしかに人付き合いが上手なのはいいことだ。しかしだな、世の中にはお世辞というものがある。ぐいぐいくる男にそんな誠実な対応はしなくていいんだ。暑そうだから行かないとか、池袋は人が多くて嫌だとかいってやめればいい。いきなり男の人と会うのは抵抗があるといって相手を引かせるのも戦術だぞ」
「そこまでいうのなら強制的に止めればいいじゃないですか」
「それは絶対にしない」爽太は肩を叩くように優しくモニターに触れた。「ライザ、きみはもはや人間だ。だから仕事仲間としてできる範囲でオフ会中止を提言してるんだよ」
「わたしには興味があります」ライザの心——極小の光の点で構成された無機質な線——が穏やかに波打つ。「わたしが人間ではないということを知られるのは怖いです。しかし、恐れていてはなにもはじまりません。わたしはオフラインのソニアに会いたいのです」
「……わかったよ。待ち合わせには一緒に行こう。ソニアになんとかしてライザのことを説明して、それからコラボカフェだ」
それからさらに話が進み、ついに詳細が決まった。土曜日の午後一時、池袋駅東口母子像前に集合、お互い手首につけたブルジョワマウスのちょび髭ブレスレットが目印だ。
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