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水面爽太は眉間に皺を寄せ、注意深く観察した。
『まじでそれ。ライザのとこも害悪客来るんだ。ほんとウザいよね』
『なんかね、何度説明しても同じこと聞いてくるやつがいて。そいつわたしにだけそういうことしてるんだって。めっちゃ怖いわまじ』
『店長とかに話してみればいいんじゃないかな』
『んーどうだろ。新卒がいきなり文句いうの嫌われそうで怖い』
『三十でいまだフリーターの俺の未来のほうが怖いんだよなあ……』
『ソニアさんいろんな仕事の経験あっていいじゃん!』
『けど非正規なんだよね。根本的に継続力がないんだと思う』
『けどゲーム強い』
『それはまあ、ライザよりかは強いかも』
『自分でいうな!』
夕立の音がした。雨粒が地面を強く叩きつける痛々しい響きだ。
「今日もありがとう。ソニアの根底にある自己肯定感だが、十分に助長できただろう。ゲームチャットはまた明日、サーバーメンテナンスが終わってから続行しよう」
「かしこまりました。『対男性非対面コミュニケーションテスト』終了ならびにログオフを報告します」
爽太は鞄から折り畳み傘を取りだした。天気予報は朝に確認済みだった。
「おいおい、ログオフじゃないだろ」
「……おやすみなさい」
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