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遊園地の外れにある観覧車にはそれなりに乗客があった。
少しの鉄錆た香りのするフレームに囲まれてガタリと籠は揺れ、ゆっくりと上昇していく。
「起きろ智樹」
「らって眠い」
この微振動が心地良よく、夜の風がフレームの隙間から吹き抜けていく。そういえば妖精というのは存在に高度上限というものがあるのだろうか、と環は手のひらに顎を乗せながら独りごちた。見下ろすと眼下では星を散りばめるようにアトラクションのデコレーションされていた。
園内アナウンスが花火の打ち上げを知らせ、ぱんと最初の花火が園の中央の塔から上がる。
環はそれに合わせて、智樹にとってはもにょもにょとしか聞こえないと言う呪文を唱え、小石を手の内で重ね合わせる。
「わぁ、なにこえ。めっちゃ綺麗」
「そうか。お前に褒められても嬉しくはないんだがな」
環の目にはただの夜にしか見えないが、智樹の特殊な目には環がばら撒いた石を起点に何重にも光の輪が湧き上がり、環の歩いた道を追いかけるようにくるくると模様が浮き上がっているように見えるだろう。
そうしてもうすぐ観覧車の頂上にたどり着く。すぐ近くでもパンと光の花が咲いた。こちらは環の目にも見える光だ。そしてさらに見上げると、やはり極小の光が瞬いていた。
「さて妖精。道が2つある。俺はこの下に異界の扉を開いた。だからこの地上に流れる光を辿れば『妖精の国』とやらに辿り着けるだろう。けれどもその道程は遠いかもしれないし行くとおそらく戻れない。もう1つは天上に至る道だ。智樹の言う通り空に登れば天上に到れる」
「え? あっちは死んだ人が行く道らよ」
「元の子が既に死んでいるなら、その先でその子と入れ替われば妖精の国に戻れるかもしれん」
「んーそっか」
智樹は相変わらず空気に向かってペラペラと話をして、やがて空を見上げた。同時に最後に一番大きな花火が上がり、パラパラと手を振る智樹の顔を照らした。
やがて俺たちは地上に降りて、帰ろうとする智樹を引き止める。
「え、らに?」
「仕事だ。別口で仕事で頼まれた件がある。俺も手伝ったんだからお前も手伝え」
「え、やら、帰りゅ」
「お前をここに連れ込めるなんてめったにない機会だからな。とっとと行くぞ」
「やら、まじ、無理。ここお化け一杯いゆ」
「大丈夫だ。そっちは俺も見えるように道具持ってきたからちょっと手伝ってくれれば」
「マジ勘弁して、無理」
気がつけば既に人影はどこにもなく、夜が更けていた。
了
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