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円城環がその遊園地の入場ゲートを潜った時、世界は既に赤紫に染まっていた。圧倒的な夕暮れの中、アトラクションから零れ落ちて舞い踊る光は様々の影を乱雑に深く長く伸ばし、昼の灼熱を少しずつ緩和していた。
「初っ端から異界だな」
環が見回すと、入口すぐのベンチでくすんだ金髪をマンバンにまとめ、細い紺ストライプのシャツに黒に近いタイトデニムの美丈夫が、予想通りぐでんぐでんに酔いつぶれていた。親子連れにヒソヒソ遠巻きにされている。
「おい、起きろ智樹」
「ふぇ、あれ、環りゃん」
「環りゃんじゃない。起きろコラ」
幼馴染の常、智樹は容赦なく環に膝頭を蹴飛ばされ、痛いと呻く。けれども智樹の焦点は未だ定まらない。
公理智樹は幽霊が見える、故に酒乱である。夜になると酒を飲んで暴れる。しかるに幽霊もわざわざ暴れる人間に絡まない。
「ざけんな。お前がすぐ来いって言ったんだろ」
「らってお化け屋敷なんらからしかたないりゃない」
「お前ほんとバカだな。お化け屋敷だからってリアルお化けがでるわけじゃないだろ」
「らって、ここ怖い」
環は長い黒髪をかき上げながら、そういえばこの神津スカイワールドは古戦場跡だったと思い出す。けれども今日、環を呼んだのは智樹だ。だから智樹が先導しなければ話にならない。
「今回は何が出た」
「ふぇとね、妖精れ、子供取り替えたんらって。戻さないろ」
「何の暗喩だよ」
言うに事欠いて妖精に子供を取られたというのか。いつ時代のどの国の話だ。
足腰の立たない智樹の肩を担ぎお化け屋敷に向かう。要領を得ない智樹の話から推測するに、この2人乗りトロッコで人間の子と妖精が取り替えられたらしい。
「ねぇ環、らんれ妖精はとりかえるの?」
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