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妖精の取り替え子といえばケルト神話だ。諸説ある。攫う者の趣味、悪戯、十分の一税の代わり。入れ替わった子は癇癪持ち、萎びた外観、不具など様々で、取替え子であるとすぐにバレる。取替え子を鞭で打ち据えるとか冷酷に扱って追い出すと本当の子が帰ってくる。
環はこの話が嫌いだ。
「色々だ」
「ろうやったら元い戻うの」
「場所が特定できればその異界に渡って物理的に取り戻せばいい」
ガタゴトと揺れるこのお化け屋敷では複数の幽霊や怪物が現れては消える。
世界は重複同時、つまりすぐ隣或いは重なって複数の並行世界が存在する。近ければデジャヴで現れ、遠ければ神隠されて戻れない。
環は呪術師だ。近くの世界であれば渡り、戻ってくることができる。物語程度の位相差なら、恐らく行き来は可能だ。
けれども環はこのお化け屋敷内という極小単位に世界の重複を感じなかった。トロッコ乗車中、智樹は怖いといって目を瞑っていた。
「智樹、本当にここか?」
「そう言っれるれど」
「言ってる?」
「ここり妖精さんがいう」
環は智樹が指差す周囲を見渡したが、姿はおろか世界の隔たりも感じなかった。
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