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環は智樹に渡したもう一つのソーダがちっとも減っていないことに気がついていた。妖精というものが物理的作用を及ぼすか否かは環にはわからない。今日は試金石を持ち合わせていなかった。
そして環は何度となく自分の幼少が思い浮かびそうになるのを頭の中で打ち消していた。
「妖精。真夏の夜の夢にも取替え子が出てくる」
「そうらの?」
「ああ。妖精王と妻が取替えた美しい子をどちらの子にするか喧嘩する」
「一緒に育てればいいろに」
「そうだな。でも喧嘩しないと真夏の夜の夢のどんちゃん騒ぎが始まらないんだ、あんな風に」
環の示す方向には光が溢れ、その後にパレードが続いていた。これが最後のパレードで、一周まわったら、花火が上がってこの異界が終了する。あと30分ころか。
「智樹、最後に観覧車に乗ろう?」
「観覧車?」
「一番高くから見ると出口がわかるかもしれないからな。俺は一回りしてくるから、15分後に観覧車前に集合だ。妖精は俺についてこい」
環は智樹に渡した5つの石をもぎ取った。環はちょくちょくこの遊園地に来る。仕事で来ることもあるし、気晴らしで来ることもある。遊園地は色々な、主に楽しい感情が交差するところだ。手の中で石をガチャガチャと組み合わせたり擦り合わせたりしながらその反応を見る。その中に環は自身が見えないもののゆらぎを見て取っていた。確かに何かが環についてきている。
この石は智樹の匂いがついているから、それを辿っているのかもしれない。
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