衝立越しの君の声

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 ベランダの柵に腕を凭せかけて缶ビールの中身を一気に半分ほど喉に流し込むと、深いため息をつく。    最近、契約社員として就職が決まった。  ずっとアルバイトで食い繋いできたけれど、「いつまでもふらふらするな」と親にうるさく言われたのをきっかけに、人材紹介会社に登録してみた。  そこから紹介を受けたのが、今働いているコールセンターでの仕事だ。  デスクに座って電話応対をするだけ。一年の契約期間を過ぎると社員登用の可能性もある。提示された条件は悪くなかった。  けれど、「デスクに座って電話対応するだけ」と言われたコールセンターでの仕事は、単純にその言葉通りではなかった。    コールセンターにかけてくるお客様は、決して話のわかる人ばかりじゃない。  少しでも対応が悪いと電話口で文句を言われるし、自分には責任のないことで何十分も延々と怒られることだって少なくない。  毎日朝から夕方までひっきりなしにかかってくる電話のほとんどがクレーム対応で、想像していた以上に心が折れた。    また怒られるかもしれないと思うと、コール音が鳴る度に受話器に触れる指が躊躇する。  お客様に対応する声に、張りがなくなる。そのせいで、先輩や上司に「やる気がない、対応が悪い」と注意を受ける。  毎日毎日、その繰り返し。
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