衝立越しの君の声

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 仕事に行くたび、少しずつ心に負荷がかかり、ストレスが溜まっていく。  今の仕事、向いてない……。  そう思うけれど、生活のことを考えれば簡単には辞められない。  明日の仕事のことを考えながら一人きりで過ごす夜は、とても苦しい。  そのせいもあって、仕事のあとは毎晩、冷蔵庫の缶ビールに頼らずにいられなかった。    街の光のせいでほとんど星の見えない夜空を見上げて、もう一度深いため息を吐く。  手元の缶ビールの残り半分を飲み干してから、憂鬱な気持ちで部屋に引き上げようとした、そのとき。 「アキ──」  不意に誰かに名前を呼ばれたような気がした。    つい足を止めてしまったけれど、ここは私の一人暮らしの部屋で、ほかの誰かがいるはずもない。  疲れて幻聴が聞こえてきているのかもしれない。自嘲の笑みを浮かべてゆっくりと頭を振ると、「アキ」と。誰かが私の名前を呼ぶ声が、今度はさっきよりもずっとはっきりと聞こえた。
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