衝立越しの君の声

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◆  熱くて眩い光が顔に当たるのを感じて目を開けた。視界がぼやけて自分がどこにいるのかがいまいちよくわからないうえに、背中とお尻がやけに痛い。  ゆっくりと腰をさすろうとして、自分が昨夜帰ってきた格好のまま、ビールの空き缶を片手にベランダに座り込んでいることに気が付いた。  空には既に太陽が昇っていて、ベランダの柵に光を振り撒き始めている。  どうやら昨夜の私は、耳心地の良い隣人の声を聞きながらベランダで眠ってしまったらしい。  急いで部屋に入って時間を確かめると、出勤するまでにはまだ三十分以上の猶予があった。  そのことにほっとすると、シャワーを浴びて仕事に行く準備をする。  一晩ベランダで座って眠っていたわりに、私の頭と身体は何故かとてもすっきりとしていた。  昨夜、衝立越しに聞いた重低音のメロディに癒し効果があったのかもしれない。  仕事用のカバンを持って玄関のドアを開けた私は、そんなことを考えながら一人でそっと微笑んだ。  
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