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それ以降、仕事から帰るとベランダに出るのが私の日課になった。
名前も顔もわからない彼は、毎晩同じ時間に一時間程、私と同じ名前の誰かに電話をかける。
私は衝立越しに、彼の声が奏でる響きに、ただ耳を傾ける。
そうしているうちに、帰宅後すぐに開けずにはいられなかった冷蔵庫のドアを開く回数が減っていった。
キンキンに冷やしたビールに頼らなくても、一人の夜が苦しいと思わなくなった。
向いていないと思っていた仕事も、以前よりは少しだけやりやすくなった。
衝立越しに届く、低くて深い、柔らかな声。それが毎晩、深い沼の底に沈みかける私をそっと優しく掬い上げてくれる。
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